生まれ変わったインプラント
高齢者の施設ケアは現在、病院、老人保健施設、特別養護老人ホームの三つの施設体系の中で提供されており、それぞれ財源や費用負担のあり方が異なる。
つまり、病院と老人保健施設は医療保険であるのに対して、特別養護老人ホームは措置費という公費である。
また本人の費用負担は、病院ではお世話料を除けば月に四万円、老人保健施設は六万円、特別養護老人ホームでは平均三万円であるが本人と家族の収入に応じて最高二五万円程度まで徴収される。
そのうえ、施設や人員配置の基準もそれぞれ異なっているが、それは必ずしも利用者のニーズの相違を反映しているわけではない。
介護保険が導入されれば、以上のような問題は少なくとも軽減される可能性は高い。
しかしながら、第六章で述べるように提供体制の問題を始めとして、まだ結論が出ていない難問が山積している。
最後の章においてこれらを整理し、解決のための試案を提示する。
日本の医療保険制度を諸外国と比べれば、次のような特徴がある。
一、皆保険は実現しているが、勤労者のための職域保険によって始まった歴史的経緯により、職場や地域を単位とした五千以上の保険者に分かれて加入しており、それぞれに加入している者の所得水準と病気になるリスクにより保険料率も給付内容も若干異なる。
所得水準が高く、病気になるリスクが低い被保険者が相対的に多い場合には、それだけ低い保険料率で恵まれた給付を受けている。
二、しかしながら、どの保険に加入していても医療機関で実際に受ける医療については格差がなく、さらに自己負担割合には大きな格差があるように見えるが、いずれの保険であっても負担額の上限は毎月六万三〇〇〇円である。
このように制度は基本的には平等にできている理由は、国による補助金と各保険者からの拠出金という二つの仕組みによる財政調整が行われ、さらに国民が保険の選択をほとんどの場合にできないことにある。
三、日本の医療は基本的には非常に平等にできており、医療機関での自己負担割合等の不平等、また差額ベッドや医師への謝礼は、こうした平等な体制に対する不満をある程度解消する安全弁の役割を果たしていると解釈できる。
なお、差額ベッドの割合は全病床の一割程度であり、また医師への謝礼が高額であるのはこうした差額病床に入院した一部の入院患者に限られている。
以上のような皆保険の体制、および財政調整の制度は一挙に実現したわけではなく、まず保険料だけでは不足する国保等の保険者に対して公費で補助することによって畦をあげ、次にゆとりのある組合健保等の保険者から拠出を求めて頭を揃えることによって実現している。
そして制度が複雑で、微妙なバランスのうえに成り立っているので、今の医療保険制度によって自分は相対的に「得」をしているのか、あるいは「損」をしているのかほ必ずしも明らかでなく、それが国民の不満を一定レベル以下に抑えるうえで役立っているといえよう。
こうした制度全体の中心となっているのが中小企業従事者のための政管健保である。
次章でも述べるように、多数の保険者が存在するが、政府が最大の保険者として指導的な役割を果たしている政管健保の制度は日本独特のものである。
ちなみに、組合健保の負担が適正であるかどうかの判断は政管健保の保険料率との対比で常に行われてきたが、今後は保健予防サービス等の給付面についても厳密に比較するべきであろう。
福祉の拡充や行革などそれぞれの時代の要請に対してフレキシブルに対応できてきた日本の制度も、高齢社会による介護需要の拡大に対しては、これまでとは異なる発想が必要であり、こうした経緯で公的介護保険の導入が検討されている。
導入されれば、介護サービスの提供は量的にも質的にも拡充されることになるが、医療保険制度のみならず、医療と福祉の供給体制、および何が「公平」であるかを改めて見直す必要が生じてこよう。
一九七〇年代において対GDP比で急速に伸びていた日本の医療費は、一九八〇年代に入るとぴたりと止まった。
第一章で述べたように、その主な理由は医療政策の競技場に行革を推進する強力な新しい当事者が現れたことにある。
しかし、よく考えてみると、一九八〇年代以後も各医療機関に対しては出来高払いで支払われており、診療報酬を改定する際には引き続き日本医師会の合意を得る必要があった。
つまり、医療費が決まるプロセスが基本的には変わらなかったにもかかわらず、医療費は抑制できたことが日本の大きな特徴である。
本章と次章では医療費の抑制が具体的にどのように達成されたかを分析する。
本章では医療費全体のパイの大きさを決めるマクロの政策次元に、次章ではパイの個々の医療分野への配分を決めている診療報酬体系のミクロの次元にそれぞれ中心をおいている。
マクロを分析するに当たっては、まず全体の構造について述べた後に、どのような経緯で現在のような状態になったかを追求してゆく(ここでは「国民医療費」の中の「医料の一般診療」を取り上げ、歯科には触れない)。
医療にお金を使おうと思えばいくらでも使うことができる。
医師も患者も日進月歩で発達している医療技術をできるだけ利用したいと考えており、また入院した場合には看護スタッフや病室環境ができるだけ充実していることを望んでいる。
ところが、一方では国民全体としては医療にあまりお金を出したいと思っておらず、給料から天引きされる保険料や税金はできるだけ少ないほうがよいと一般に考えている。
医療政策が前者のほうだけを向いていれば医療費は高騰し、逆に後者のほうだけに向いて作れば医療環境は悪化する。
そこで、こうした難題を解決するためには、医療費を使う責任と、医療費を賄う責任を一つの機関が同時に持つ必要があり、日本の場合、それは制度上は中医協にある。
中医協は診療側、支払側からの各委員と公益側の委員によって構成され、中医協からの答申に従って厚生大臣は個々の医療行為や薬剤の保険点数をおよそ二年おきに改定している。
改定の作業は政治的にも技術的にも非常に複雑である。
具体的には日本医師会や大蔵省などと折衝する必要があり、その際、改定の根拠となるような統計も用意しなければならない。
つまり改定幅は政治の次元だけで決まるわけでもなく、空統計数値に基づいて機械的に算出されるわけでもない。
いずれにせよ、こうした作業を中医協の事務局として担当している医療課の役割は非常に大きく、同課に医療費の使い方、賄い方の両方を決める実質的な責任があるといっても過言ではない。
それでは医療課は具体的にどのようにしてマクロの引き上げ案を決めているのであろうか。
医療費は大きく医療サービスの部分(全体の約七割)と薬剤の部分(同三割)に分かれるが、医療機関における実態を把握するために診療報酬の改定が行われる前の年にそれぞれについて調査が実施されている。
これらの調査により医療機関の経営状況(開業医の場合は実質的に収入の状況となる)および薬剤の取引価格が直接明らかになるので、実施する際の方法論を巡って厚生省と日本医師会は長い間対立しており、今日においても両者が合意した内容に限って結果の公表が認められている。
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